「我慢」を強要しないで
Q 小学生の娘が学校に行きたくないと泣き出しました。話を聞くと、宿題を忘れた子が怒られる様子を見たり聞いたりするのが嫌みたいです。「空気が悪くなるから」と話していました。子どもにどう助言したらいいでしょうか。
A 子どもにどう助言するかを考える前に、まず教室で起こっていることを十分に把握する必要があります。
もし先生が尋常でない激しい怒り方をしているのだとすると、怒られている生徒だけでなく、それを見ている他の生徒も恐怖を感じるでしょう。これは、心理的虐待に相当します。この場合、子どもに我慢するように伝えることは、虐待への加担を意味しますので、絶対にやってはいけません。
先生が実際には怒っているわけではなく冷静に注意しているだけで、注意されている本人も含めてほとんどの生徒が恐怖を感じていないのに、質問者のお子さんだけが恐怖を感じたり嫌な気持ちになったりしているという場合もあります。この場合、質問者のお子さんが他者の否定的な感情に対して並外れて敏感なのかもしれません。
例えば自閉スペクトラム症という発達障害がある人の一部で、小学生のとき他生徒が注意されていた場面がいつまでも忘れられず、数年たってからフラッシュバック(突然その記憶がよみがえること)してパニック状態になるといった事例を経験することがあります。他の生徒はつらいと思わないようなことでも、その子にとっては心理的虐待と同様の影響を及ぼすのです。
したがって、そのような子どもがクラスにいる場合には、先生は他の子に注意する際にも慎重にしなければなりません。この場合も子どもに我慢するように伝えてはいけません。
まだ小学生の子どもが学校を休みたいと口にするのは、問題が相当に深刻かもしれないと考えてください。このお子さんのように理由まで述べているのに我慢を強要すると、子どもは親を信頼できなくなります。教室でどのような事態が生じているのかを把握するまでは、本人の希望に沿って登校するか休むかを決め、他生徒の保護者などと連絡をとって状況を把握するようにしてください。
もし先生の怒り方を多くの生徒が怖いと思っているようであれば、複数の保護者から先生あるいは学校の管理職にそのことを伝えて、先生の注意の仕方を改善するよう申し入れる必要があります。もしお子さんだけが特別に恐怖や嫌悪感を強く感じている場合は、学校に特別な配慮を求めると同時に、児童精神科などに相談することをお勧めします。(本田秀夫・信州大医学部子どものこころの発達医学教室教授)
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