今年90歳になる五木寛之さん。希代のストーリーテラーであり、ダンディーなイメージがある一方で、根っこに虚無やデラシネ(根無し草、転じて棄民)の思いが見え隠れする小説家である。放送作家から転身し、デビュー2年目(1968年)に書いた『恋歌』。60年代の東京を舞台に、レコード会社の学芸部長を主人公として、男女の愛情と影を描いた、一見おしゃれだが、実は切ない小説だ。
引用箇所は、セックスレスの主人公夫婦の背後に...
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